剱岳 小窓尾根  平成29年11月3日  
 
 参加者: 中川、樽矢、堀

季節は晩秋から初冬へと移り変わり、山々は神々しく白いベールを纏う季節になって来た。
晩秋の時期は休日毎に台風や悪天が巡ってきて満足する山行が出来ずにいた。
今週も週初めの天気予報では悪天予報であったが、週末が近づくにつれて11月3日、
文化の日はかなり良い天気予報となって来た。
元々、11月3日の文化の日は晴れの特異日と言うことで期待はしていたが。
天気予報を注視しつつ、2日の金曜日に白山に行く予定で計画を支部に連絡した。
すると、せっかくなので剱岳 小窓尾根にしないかとの、甘い悪魔のささやきが聞こえ
即時計画変更し小窓尾根乗越1,614mの池ノ谷への下降点へ剱岳西面観望と写真撮影の
山行とした。
余力があれば池ノ谷へ降りて富高岩屋まで行きたい所であるが、時期的に日暮れが早く
暗くなってしまうので小窓尾根乗越1,614mでの到着時間で相談とした。
山行を計画したのが2日の金曜日であったのでお誘いの連絡を出来た会員も限られ、
急であったので予定を調整できた中川、樽矢、堀の3名での山行となった。

当初、朝6時に集合出発、8時に馬場島スタートを予定したが、17時頃に馬場島に下山となってしまう、
今の時期は夕暮れが早いので、出発を1時間繰り上げ、朝5時に集合出発、
7時に馬場島スタート、16時頃に馬場島に下山とした。
4時起床で眠い目を擦りつつ市内で中川支部長と合流、観法寺にて樽矢会員と合流後に
立山インターへと走る。
呉羽SAあたりから夜が明け始め、正面に今から登る剱岳、右に立山・薬師、
左には毛勝三山から北方稜線が綺麗なシルエットとして黎明の中に浮かび上がってきた。
右手には富山平野のお天気山である鍬崎山がクッキリと望め、富山平野の天気が良いことが覗える。
尚、鍬崎山は戦国大名 佐々成政の厳冬の飛騨山脈・立山を越えて浜松の徳川家康に再挙を促しに行った、
さらさら越え(ザラ峠~黒部峡谷~針ノ木峠)と共に、埋蔵金伝説がある。
「朝日さす夕日輝く鍬崎に、七つむすび七むすび、黄金いっぱいに光り輝く」という謡が残されており、
黄金の謎を解く鍵が秘められていると伝えられている。
興味のある方は冬に是非、激深・重雪のラッセルが楽しめます。

近づく剱岳に若かりし頃の想いを重ね、期待しつつ馬場島に到着。
Compassで登山届けを出してあるが、上市警察署馬場島派出所の登山届けポストにも提出。

今日はルートファインディングに苦労すると予想されたので2万5千分の1地形図(剱岳)とコンパスとGPSを持ってきた、
GPSをONし衛星を補足するまで数分、GPSが現在位置を確認出来たところで予定通り7時に出発。
馬場島では自分たち以外に数パーティーが出発したが、他パーティーは「試練と憧れ」の早月尾根に向かった様であり、
白萩川に向かうのは我々と工事車両のみであった。

ゲートが閉められた車道をしばらく歩き取入口へ、取入口を始め途中の堰堤も昔の面影が無く工事で立派になっていた。
今日は天候が良く取入口までで汗ばんできたので各自着ていた防寒着を脱ぎ、これからのタカノスワリ高巻き・渡渉に
備えてヘルメットを着用する。

取入口から高巻きに入るがいきなりの荒れた登り、トラロープが張られているが、
湿った落ち葉が大量に足元に積もっており地面が見えず、足を置くといきなり滑る。
高巻きルートは最近ほとんど人が入った形跡が無く荒れ放題である。
高巻きの斜面に付けられた踏み跡は所々崩れ、踏み外すと河原まで落ちそうである。
ヘルメットを着用していても冷や汗が出る。
かなりスリリングな高巻きを進み、小尾根を乗り越すあたりに来ると池ノ谷ゴルジュが圧倒的な険悪さで正面に迫ってくる、
何度見ても生きた心地のしない谷である。
ここで小休止をしながら写真を撮る。
高巻きルートはここから白萩川に向かって急勾配で下る。
下って河原に降り立った所が丁度、池ノ谷ゴルジュの入口正面である。
河原からだと池ノ谷ゴルジュは見上げることになるので余計に圧倒される。
取入口が標高976m、高巻きが標高1,150m、白萩川河原が標高1,050mなので高度計を見ていても進んでいる実感が無い。

河原からは正面に大窓が見えているがかなり遠い、仙人谷方面に進むが、今日は思ったより水量が少なく雷岩まで快適な河原歩きとなる。
雷岩の手前で一箇所だけ壁をへつる所があるが、赤谷尾根側からの落石に注意すればドボンも無い。
以前に高巻きをせず雷岩まで遡行したが渡渉・へつりで何回かドボンして真夏なのに寒い思いをしたことを思い出した。

雷岩で赤谷尾根側から小窓尾根側に渡渉するのだが、水量との関係で良い渡渉点が見つからずにウロウロする。
雷岩直下は足場となる岩はあるが水流下、雷岩近辺で探すが足場の間隔が遠い等、渡るには躊躇する。
雷岩から10m程上流を偵察したところ岩の間隔は良し、少し水流はあるが何とか渡れそうな地点を発見、
靴は濡れたが中までは濡れずに渡ることができた。

渡渉した小窓尾根側にケルンが積んであり、渡渉した場所が正解の場所かと思う、が、
そこから小窓尾根に取り付く踏み跡が無い。
少し上流に進んで見たが踏み跡も獣道も見つけられず、このまま強引に藪漕ぎか、
との時に樽矢会員が下流方向にダケカンバの枝に結ばれたテープを発見。
そのダケカンバに向かって少々の藪漕ぎで雷岩からの踏み跡を発見した。
踏み跡発見で安堵し休憩、各自軽食と水分補給を行う。

休憩地点から出発し直ぐに足元に「池ノ谷」の標識を発見。
ここが小窓尾根の取り付きのガレ沢(第三ガーリー)であることが確認出来た。
ようやく本日のメインディッシュ、標高差500mを一気に登らないと行けない。

しかしこの登りは一筋縄ではいかない、急登に続く急登、相変わらず落ち葉で足場は悪く滑る、
トラロープとフィクスはあるがかなり古く使うのを躊躇する。
前に人が入ったのはいつだろうと思えるくらいにブッシュが張り出している所も多い。
高度計を見ながら登るが遅々として標高は稼げない。
登りの途中で一本入れるがまだ1,300m、残り300m、ここまで来ると大窓、白ハゲ、赤ハゲ、白萩山、赤谷山と
赤谷尾根の向こうに、猫又山、大猫山と東芦見尾根が見え出し、写真を撮りながら登る。

各自の高度計がそれぞれ違う高度を示し1,600mを越えているのにまだ着かない、
いや、自分のは1,600mを越えていない、気圧高度計なので誤差はある等々の会話を
しながら登ることほぼ5時間、樽矢会員から「着いたー」のコール、続いて乗越しに立つと
目前に小窓尾根上部マッチ箱、小窓ノ王と南壁、三ノ窓、チンネと懐かしき剱尾根が、ようやく対面できた。
黒い岩壁に初冬の雪を纏い凜とした厳しさが伝わってくる、夢中で写真を撮る。

写真を撮り終え大休止、
ここで樽矢コーヒー店が開店、最高の場所で美味しいコーヒーを頂き、各自昼食。
楽しい時間が経つのは早い、まったりと30分程休憩となった。
以前、この乗越しは冬期に小窓尾根を登る時の中継地となっており、今の時期に荷揚げをし、
○○山岳会とか○○大学山岳部とか書かれた一斗缶のデポがよく置かれていた。
入山者も少ない現在、デポ缶は無かった。

名残惜しいが、下山も時間がかかるルートだ、店仕舞いをし下山にかかる。
登ってきた急登を降るとなると気が滅入るが帰りの時間だ。

下山は登り以上に滑る、慎重に、信用できないがトラロープやフィクスと枝を補助に
掴みながら、、、降りもシブイ。
白萩川、仙人谷の河原がほぼ足元に見える、そこまで急傾斜を降らないといけない。
降ること2時間、急傾斜ゆえに早く標高差500mを一気に降りた。
河原に着いて一安心、だが気を抜かず渡渉を済ませてから休憩とする。

帰りも高巻きルートとなるので河原から100m程を登り返す事になる。
この登り返しも急登のため疲れた足にはキツイ。
登り切った乗越しにて小休止しながら池ノ谷ゴルジュの姿を目に焼き付けで、取入口へと降る。

取入口からは名残惜しく何度も振り返り、何枚も写真を撮り、16時、馬場島に無事に下山した。

帰路の伊折橋ではちょうどアーベントロートに染まりつつある剱岳の姿を写真に収めつつ、
上市のアルプスの湯で汗を流し、高速に乗る。
土産に鱒寿司をと小矢部に寄るが既に売り切れ、富山名物のとろろ昆布を購入した。

2000年頃までは小窓尾根、池ノ谷、三ノ窓へのルートとして利用され、
シーズン中は一日に数パーティーを見かけることもあった。
しかし、早月尾根と別山尾根ルートが整備され多くの登山者が往来するようになり
小窓尾根は往来が無くなり年に数パーティーではないかと思われる。
その為、ルートは崩れ、落ち葉が積もり、ブッシュが伸びて荒れたルート、まさしく「踏み跡」になりつつある。
今回は参加3名共に古い記憶ではあるが何度も通ったルートであったので土地勘もあり
ほぼ迷わずに行けた。
反省点としては、ここまでルートが荒廃している情報を得ていなかったのでマーキング(赤布)を持ってこなかったことである。
何カ所もマーキングしたいと思うところもあり、再訪する時はマーキング(赤布)必携である。

尚、このルートは国土地理院地図及び市販の登山地図にも描かれていないマイナーなバリエーションルートであり、
安易に入るべきでは無いことを書き加えておく。

                              (文:堀  写真:中川 堀 樽矢)
 
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