寄稿 読売新道・赤牛岳/2864m  (文・写真 大庭 保夫)

 
   黒部川源流域の山々は奥深い。その最高峰水晶岳から北方へ長々と黒部ダムまで続く読売新道。
 そこに寝そべる赤牛岳、歩行約48kmの山行の報告です。大庭保夫
 
  8月31日
 深夜出立、新穂高温泉駐車場に着く(6:00)。夏の終りなのに相当の車があった。
 登山届を提出し、蒲田川左俣林道を行く。やがて笠新道登山口の水場。
 昔はこんこんと湧いていたが、今は管を通して細々と勢いがない。わさび平小屋まで行って休憩した(7:30)。
 林道から小池新道へ。秩父沢を渡る(9:00)。前日までに通過した台風10号のお陰で適度な水量がある。
 山小屋でも水不足の心配はなさそうだった。
 鏡平山荘着(11:10)。
この先双六小屋まで行くことはできるが、急ぐ必要もないし、ここは槍、穂高の絶好のロケーション地で素通りするのはもったいない。早々と泊りを決めた。小屋前のベンチは陽が当たっていても風が吹き抜けて肌寒い。
居場所を求めて鏡池へ移動。風が弱く温かいベンチで休憩に絶好。
池の背後は、槍を正面に右手へ名だたる3千m級の山々が西穂高岳まで明瞭に続いている。
雲一つない極上の展望を飽きずに夕方まで眺めていた。

 槍ヶ岳と鏡池
 9月1日 
山荘を発つ(5:30)。弓折乗越(6:25)辺りから槍ヶ岳のシルエットが美しい。順調に双六山荘着(7:25)。
しばし休憩後、三俣蓮華岳を前方に見ながらぶらぶら歩いて三俣峠(9:44)、日差しが暑くなる。
鷲羽岳を見ながら下って三俣山荘着(10:25)。
かつて妻と2人、折立から黒部五郎岳を経て、2泊目の宿がここだった。その当時に比べれば、大きな山荘できれいだ。
鷲羽岳へは1時間もかけずに一気に登ったのを思い出すが、今はそんな元気もなく同行の妻もいない。
 黒部川源流へいったん下って、緩やかな広い源流の谷筋を登る。稜線は近くに見えたが意外と遠い。
ワリモ北分岐(13:20)から何度か休憩して水晶小屋に着いた(14:30)。
いつも混んでいるが、布団1枚に2人でラッキーと誰かが言っている。
低い天井の梁に頭をぶっつける音がしばしば聞こえ、私も何回かは。快適さは縁遠い小屋だった。
  
鷲羽岳                  黒部五郎岳
 9月2日
 天候は下り坂という予報がささやかれる。赤牛までピストンか黒部ダムへ下るべきか迷いながら、
荷物を残さず小屋を発ち(4:30)、水晶岳の山頂で日の出(5:15)、清々しい気分になった。 
 黒部五郎岳の山頂から下部へと次第に陽が差し広がる。
雲の平、高天原、薬師、立山、槍、笠など北アルプス360度の展望だ。
行く手の読売新道が北へ延び、赤牛岳があった。
 水晶の岩場を下り、アップダウンの稜線をうねりながら行く。
花崗岩の赤い砂礫地を緩やかに上ると、念願の赤牛岳山頂(9:17)。
北アルプスの真ん中から黒部源流の山々などの大展望。大きな図体の薬師岳、三つのカールが黒部川の深い谷を挟んで対峙していた。
 山行の目的は達した。戻るべきか黒部ダムへ下るか思案していると、埼玉の夫婦が、一緒に行きませんかと誘う。
すぐに同行を決心し、山頂を発つ(10:00)。8分の6~1の道程の表示を目安にどんどん下る。
森林限界を過ぎてクロベの大木、天然記念物級が多数あった(12:30)。
洗掘された急な登山道を下る。ブナ林に入りしばらくして奥黒部ヒユッテ着(15:00)。
風呂あり、部屋も広い。食事のメニューもよい。山旅の疲れを解放してくれる宿舎だった。
9月3日 
奥黒部ヒュッテを発つ(6:31)。梯子のアップダウンの多い道だ。
平の渡し場に着いて(8:50)、
黒部湖の景色を眺めて渡しを待つこと1時間余、
対岸の入り江から船が来た(10:20)。対岸まで約10分。
下船して100段くらい急勾配の階段を上ると平ノ小屋(10:48)。
新しくてきれいだ。
一度は泊まりたいと聞くと小屋の主人は、これからお客が多くなると言った

 あとは水平道を行くだけ。
缶ビールで喉を潤おし気分は良いが、気持ちが緩んでペースが落ちた。
ロッジくろよん(14:37)、黒部第四発電所ダム(14:57)、
トロリーバスで扇沢駅に(15:50)、
バスで大町まで行き、宿を探すがどこも満杯。
電車を乗り継いで新島々駅が終点(19:30)。
暗闇迫り、安堵できるところはない。
タクシーで平湯へ行き、仮眠できる温泉宿を探し当て、肩の荷を下ろした(20:30)。

9月4日
朝一番のバスで新穂高温泉へ戻り、下山届を提出。マイカーで加賀に戻る。晴天に恵まれたが、なぜか満足半ばのひとり旅だった。

赤牛岳

黒部湖 平の小屋から
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